1.「熱風!! 南インド映画の世界」の出現
「熱風!! 南インド映画の世界」は、南インド映画のカテゴリーに入る作品4本を集めたプログラムで、すでにJAIHOで配信済み作品2本と、日本未公開作品2本という内容になっている。
前者に入るのは、昨年10月21日に公開されていまだにロングランが続いているテルグ語映画『RRR』(2021)のS.S.ラージャマウリ監督作で、主演俳優のNTR Jr.とラーム・チャランそれぞれの主演作である。NTR Jr.主演の『ヤマドンガ』(2007)は、インド映画が長年培ってきた神話ものを現代のストーリーと合体させ、トリックスター的主人公を縦横無尽に活躍させて、NTR Jr.にその魅力を遺憾なく発揮させている。16年前の作品なので単体での劇場公開は無理だろうが、こういうやり方でスクリーン上映すれば、NTR Jr.ファンを中心に多くの客が足を運ぶ可能性がある。
『マガディーラ 勇者転生<完全版>』(2009)は、すでにJAIHO配信、ソフト化を経て、限定的にBlu-ray上映での劇場公開もされているので、ラーム・チャランのファン以外には吸引力が弱かったかも知れない。ただ、この作品にカメオ出演しているラーム・チャランの父で、“メガスター”チランジーヴィの主演作『サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者』(2019)がラインアップに入っているため、そこに繋がる作品として見直してみる価値はある。それと、ラーム・チャランのデビュー2作目で、彼の存在が広く世の中に認知された作品であり、『RRR』の監督S.S.ラージャマウリにとっても初めて興行収入が10億ルピーを超えた作品なので、スーパーヒットした『RRR』の原点的作品と言うこともできる。
一方、前述したチランジーヴィ主演の『サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者』は、スケールの大きな時代劇であり、『RRR』とも通じるテーマの反イギリス闘争が描かれていることから、アピール度も高かったようだ。1840年代の地方領主たちのイギリスに対する反乱が豪華キャストで描かれており、スディープ、ヴィジャイ・セードゥパティ、ジャガパティ・バーブ、さらにアミターブ・バッチャンら芸達者が顔を揃えている。女優陣も、恋人役のタマンナー、妻役のナヤンターラ、そして、本編の最初と最後に登場する、インド大反乱の立役者ラクシュミー・バーイー役のアヌシュカ・シェッティーと超豪華で、“メガスター”チランジーヴィを引き立てている。
最新の作品である『プシュパ 覚醒』(2021)は、2021年全インド興行収入トップの作品である。ハリウッド映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や、ボリウッド映画『スーリヤヴァンシー』等を抑え、コロナ禍下で28億3600万ルピー(約43億円)という国内興収をあげたヒット作だ。ラーム・チャランの母方の従兄アッル・アルジュンが主演しており、日本ではまだ劇場公開作品がないアッル・アルジュンの魅力を知るには、最適の作品である。『プシュパ 覚醒』はシリーズものの第1部であり、「パート2に続く」で終わったので、ネット上には「2」を待ち望む声が溢れている。「熱風!!~」シリーズが今後も続いて来年公開の第2部も見られることを、また今回は4作品全部がテルグ語映画だが、他の南インド3言語――タミル語、カンナダ語、マラヤーラム語映画の公開にも、この先期待したい。
2.前後編ものブームのインド
『バーフバリ』シリーズ(2015&2017)の成功以降、インド映画で増えたのが2部仕立ての作品で、前述の『プシュパ』の第2部は、2024年8月15日に公開が予定されている。2部仕立て作品の日本公開は少々難物で、『K.G.F: CHAPTER 1&2』(2018&2022)のように一挙公開が望ましいものの、短期間での2部作一挙見は消化不良ともなり、観客が付いてこられない事態も起こる。『バーフバリ』の時は約9ヶ月間空けての続編公開だったが、『バーフバリ 王の凱旋』公開時には『~伝説誕生』のダイジェスト版を冒頭に付けるなどの工夫がなされ、日本での大ヒットに繋がった。
インド映画では、『バーフバリ』以前にもシリーズものがなかったわけではない。だが、その多くはタイトルが共通、または人物設定が同じというようなゆるいシリーズもので、「つづく」スタイルだったのは、もともと長尺だった作品を2つに分けた『血の抗争 Part1&2』(2012)【常時配信中】ぐらいしかない。それが『バーフバリ』以降は、『K.G.F』や『プシュパ』のほか、タミル語映画界の大御所マニラトナム監督も『Ponniyin Selvan(カーヴェーリ川の息子)1&2』(2022&2023)を撮るなど、「流行中」と言ってもいい状態なのである。カンナダ語映画初の2部仕立て作品『K.G.F』の大ヒットにより、テルグ語映画界に迎えられたプラシャーント・ニール監督は、現在撮っているプラバース主演作で12月22日公開予定の『Salaar(将軍)』も2部作にするようで、今年に入って『Salaar:Part 1―Ceasefire(停戦)』とタイトルが変更された。
なぜこんなにも2部仕立ての作品が増えたかと言えば、それはインド人観客が「待てる」ようになったからではないかと思う。1991年からの経済発展が定着し、人々の生活、そして心にも余裕ができてきたのだ。それまでは、映画はいわば人生のカンフル剤で、注入してもらうとその先しばらく元気で暮らせる、といった存在だった。従ってその都度、最後まで注ぎ入れられないと、人々は不満だったのである。
しかし、経済発展が実を結び始めた2010年代以降、面白い映画が「つづく」になっても、人々は続編というか完結編までの待ち時間を楽しめるようになった。生活と共に、精神的にも余裕が出てきたのである。この変化を敏感に捉えた南インドの監督たちは、これに応えて2部仕立てを試み、後編を前編以上に面白く作ってさらにヒットさせる努力を傾けている。
この、監督を初めとする映画人たちの熱度が高いのが、現在の南インド映画界だ。北インドのボリウッドことヒンディー語映画界では、コロナ禍の数年前からその熱が奪われて久しい。「熱風!!」はボリウッドにも吹くのか。しばらくは前後編2部作ブームを注視していきたい。