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2021.07.23

沸騰する世界最大の映画大国 インド映画縦横無尽②

壮大な伝説の完成とボリウッド大ヒット作の初登場

松岡環

『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』
© ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

1.伝説の完成

 『バーフバリ 伝説誕生<完全版>』(2015)に続き、バーフバリ 王の凱旋<完全版>(2017) 【8月17日~9月16日配信】の登場である。閉塞状況が長く続く今、その息苦しさを打ち破ってくれる強力な「物語」が、まるで天から舞い降りたように思える『バーフバリ』二部作だが、ことに完結編である『~王の凱旋』は、大いなるカタルシスを味わわせてくれて見応え満点だ。
 『バーフバリ』二部作が様々な神話を下敷きにしていることは、インド人ならすぐに気づくと思うが、日本人の中でもインド好きの人は、見ていていろんな箇所で反応したに違いない。まず『~伝説誕生』では、シヴドゥ、シヴァガミという名前や、シヴァ・リンガの登場、そして額の横三本線やトリシュール(三叉矛)のマーク等々、シヴァ神話との結び付きがいくつも見て取れる。さらに、川の流れに乗る赤ん坊、骨肉の争い、王位を継げなかった体の不自由なビッジャラデーヴァの存在などは、「マハーバーラタ」を想起させる。

『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』
© ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.

 『~王の凱旋』でも、冒頭にシヴァ神の息子である象神ガネーシャの巨像が出てくるので、再びシヴァ神話の世界かと思ったら、何とここでアマレンドラ・バーフバリは象に乗るのである。象に乗った神様と言えば、かの有名なインドラ神、日本で言えば帝釈天ではないか。そう言えばバーフバリ父子の、アマレンドラは「アマル(不滅の)+インドラ」、マヘンドラは「マハー(偉大な)+インドラ」から成る名前だ。神の中の王と言われるインドラ神が、ここでにわかに大きな存在となる。
 その後すぐ、「ラーマーヤナ」のラーヴァナ退治を思わせる、火矢が射かけられて悪魔の人形が焼かれるシーンがあり、また、クンタラ国でのシーンでは、デーヴァセーナ姫らがクリシュナ神を祭って歌い踊るシーンも登場する。ラーマやクリシュナはヴィシュヌ神の化身なので、ヒンドゥー教徒ヴィシュヌ派の人々もここで溜飲が下がったことだろう。そしてラストのクライマックスは、「マハーバーラタ」と同じく、身内同士の大戦争が勃発して決着がつく。
 闘いのあとに訪れるエンディングは、長かった神話物語の最後を彩るにふさわしいエピソードで締めくくられ、ここはまさに「因果応報」。こんな巧みな神話映画を壮大なスケールで作り上げたS.S.ラージャマウリ監督とそのチームには、脱帽するしかない。

『シンバ』

2.ボリウッドのお調子者見参!

 そして、いよいよボリウッド映画の登場である。しかも、日本初お目見えの大作シンバ(2018) 【7月31日~8月30日配信】とは、嬉しいではないか。監督はローヒト・シェッティ、主演はランヴィール・シン、共演は初々しいサーラー・アリー・カーン(サイフ・アリー・カーンの娘)、悪役を演じるのはソーヌー・スード、おまけに豪華ゲストも顔を出すという、ヒットしない方がおかしい布陣の作品である。案の定、2018年の興行収入第4位にランクインした人気作だ。

『ガリーボーイ』

 ランヴィール・シンは、日本でも『パドマーワト 女神の誕生』(2018)とガリーボーイ(2019) 【近日配信予定】が公開されており、映画祭上映された作品も多い。1985年7月6日生まれの35歳で、2010年に『Band Baaja Baaraat(花婿行列が賑やかに)』でデビューしてから10年、今やトップスターの1人である。特に大物監督サンジャイ・リーラー・バンサーリーに気に入られて、『銃弾の饗宴』(2013)、『Bajirao Mastani(バージーラーオとマスターニー)』(2015)、そして『パドマーワト』と、ディーピカー・パードゥコーンと組んだ大型作品がいずれも大ヒット、トップに駆け上がると共に、ディーピカーという最良の伴侶も手に入れた。『パドマーワト』と『ガリーボーイ』を見るだけでも、その確かな演技力が感じられる俳優だ。

『シンバ』

 しかしながら、ランヴィール・シンが本領を発揮するのは、実はチャラ男を演じる時なのだ。ハジけたお調子者が、実によくハマる男なのである。『シンバ』は、NTRジュニアが主演したテルグ語映画『Temper(気分)』(2015)をゆるーく下敷きにしながら、ローヒト・シェッティ監督が作った人気シリーズ『Singham(シンガム/獅子)』のスピンオフ的作品にもなっていて、様々な要素が詰め込まれている。前半はやりたい放題のおちゃらけ悪徳警官、後半は正義に目覚めた獅子奮迅警官として、ランヴィール・シンは暴れまくる。
 こんな彼のチャラ男キャラがインドでは大人気で、キャピタル・フーズの中華系食品CFには、数年前から「ランヴィール・チン」という名前で登場し大人気になっている。日本のファンも「チンさん」と呼ぶなど、チャラ男キャラはモテモテだ。その本領発揮ぶりを、『シンバ』では堪能できる。

3.2021年後半のインド映画は?

 4月初めから急速に再拡大したインドの新型コロナウィルス感染は、一時は悲惨な状況を各地で招いていたが、5月初旬のピーク後は一気に減少、現在ワクチン接種も進行中である。だが、シネコンも含めた映画館はまだ閉まっているところが多く、公開を予定されていた大作が軒並み影響を受けている。
 ランヴィール・シン主演で、クリケットの1983年ワールドカップを描く作品『’83』は、ランヴィール・シンが当時のキャプテンで、日本で言えば王、長島的存在のクリケット選手カピル・デーウを演じており、妻役はディーピカー・パードゥコーン、監督は『バジュランギおじさんと、小さな迷子』のカビール・カーンと、公開されればその年のナンバーワン・ヒットとも目されている作品だ。インド中の映画ファンとクリケットファン、つまりはほぼ全国民が、大興奮と共にスクリーンで見られる日を待ち望んでいる。
 一方、プラバース主演の『Radhe Shyam(ラーデー・シャーム)』は、7月30日の公開が予定されている。2月には早々に麗しい予告編が公開され、数ヶ月間待たされてきただけに、その日、インドのシネコンの扉が開くかどうか、インド中が注目している。他にも、『シンバ』にチラリと登場したアクシャイ・クマール主演作『Sooryavanshi(太陽帝国の人)』など、公開が延期されて待機中の作品が、本年後半には次々公開される予定である。