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2024.06.21

JAIHOでも、劇場でも、縦横無尽に楽しみたい

フランスの国民的映画スター、 ジャン=ポール・ベルモンドの多彩な魅力

江戸木純

『ラ・スクムーン』
©1972 STUDIOCANAL / PRAESIDENS FILMS (Rome). All rights reserved.

 日本におけるジャン=ポール・ベルモンドの認識は、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1960)と『気狂いピエロ』(1965)に主演した“ヌーヴェル・ヴァーグの顔”というのが一般的だ。2021年9月6日の彼の死を報じる日本のメディアの論調も大方そんな感じだった。だが、“ヌーヴェル・ヴァーグの顔”というのは、ベルモンドの輝かしいキャリアの冒頭を飾るほんの一部分でしかない。
 それよりも、ベルモンドが今も世界中で尊敬されている最大の理由は、彼がスタントマンなしの生身で臨み、アクション映画の歴史に刻み、その後の映画や様々なメディアに多大な影響を与えた、あまりにも巨大な爪痕の数々にほかならない。同時に彼はサイレント喜劇からの伝統を体現する最高のコメディアンにして、人間国宝級の舞台俳優にして、観客を楽しませることにすべてをかける本物のエンタテイナーであり、その対価としてフランスで最高の出演料を得る代わりに、主演作のほぼすべてを年間興行成績上位にランクさせる大ヒットに導いた真の“映画スター”だった。

『リオの男
a film by Philippe de Broca © 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.

 日本でも70年代後半まで、ベルモンドはスティーヴ・マックイーンやクリント・イーストウッド、チャールズ・ブロンソンらと肩を並べるスターとして人気があり、60~70年代の主演作も頻繁にテレビ放映されていたが、80年代以降、SFX満載のハリウッド超大作が映画興行を席巻するようになるとベルモンドの新作の日本公開が激減、公開されても小規模だったり、ビデオ・ストレートだったりと、ヌーヴェル・ヴァーグだけではない、“映画スター”ベルモンドを知らない世代も増えてしまった。
 そんな、日本ではしばらく忘れられていた、ベルモンドの真の魅力の“再発見”と“再評価”を目的に企画されたのが、「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」だった。2020年にスタートし、全国の劇場で大好評を得た20作品の中から、厳選されたアクション活劇系5作品が今月JAIHOで配信されるが、どれもベルモンドの魅力がぎっしり詰まった必見の傑作揃いだ。

オー!
HO! a film by Robert Enrico ©1968 – TF1 – MEGA FILMS All rights reserved.

 『ラ・スクムーン』(1972)【配信期間:2024年6月1日~7月30日】は、“暗黒街小説の巨匠”ジョゼ・ジョヴァンニが、1962年にジャン・ベッケル監督、ベルモンド主演で『勝負(かた)をつけろ』として映画化された自らの原作「ひとり狼」を、自らベルモンド主演でリメイクしたアクション・フィルム・ノワール。30年代のマルセイユを舞台に義理と友情に生きる豪快なギャングの生きざまをスタイリッシュに描いたこの作品は、80年代の“香港ノワール”に大きな影響を与えた1本で、ここでベルモンドが見せるスーツに二丁拳銃のスタイルは、ジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』(1986)におけるチョウ・ユンファの二丁拳銃のモデルとも言われている。
 『リオの男』(1964)【配信期間:2024年6月7日~8月5日】は、ベルモンドがフィリップ・ド・ブロカ監督と組んで放った冒険活劇の古典的名作で、世界的大ヒットとなって“アクション・スター”ベルモンドの名を一躍国際的にした。スピルバーグが9回見て、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)と同シリーズのお手本の1本にしたという話は有名で、巨大な岩石に追われるシーンなど、随所に“インディ・ジョーンズ”シリーズの元ネタ的シーンが登場する。

大頭脳
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy) All rights reserved.

 『オー!』(1968)【配信期間:2024年6月13日~8月11日】は、ベルモンドが『冒険者たち』(1967)で成功を収めたロベール・アンリコ監督とそのチーム、同じく同作のヒロインのジョアンナ・シムカスと組んだジョゼ・ジョヴァンニ原作による青春ギャング映画。“怪盗ルパン+アル・カポネ”と呼ばれたレーサー崩れの無軌道なギャングの生きざまは、もうひとつの『勝手にしやがれ』ともいわれ、またアニメ・シリーズ「ルパン三世」の第1シリーズに与えた影響も大きい。アラン・ドロンのカメオ出演も要チェックだ。
 『大頭脳』(1969)【配信期間:2024年6月19日~8月17日】は、フレンチ・コメディの大巨匠ジェラール・ウーリー監督とベルモンドが組んだ国際超大作。盗みのプロたちが現金輸送列車からの強奪を競い合い、騙し合う展開はほとんど“実写版ルパン三世”。製作当時フランス映画史上最大の製作費をかけたスケールの大きな見せ場が満載で、体を張ったぶら下がりアクション、カーチェイス、脱獄に動物との絡みと、ベルモンド映画のトレードマークが数多く登場する。

『警部』
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL
– GAUMONT – Tous Droits Réservés

 『警部』(1979)【配信期間:2024年6月28日~8月26日】は、『恐怖に襲われた街』(1975)、『パリ警視J』(1984)と並ぶ、ベルモンド式暴走刑事アクションの1本で、“警官か強盗”という原題にもあるように、とにかくやることなすこと過激で掟破りな特命警部の大胆過ぎる活躍が描かれる。ベルモンドは『ダーティハリー』シリーズ等、ハリウッドの刑事アクションへの対抗意識を燃やしていたが、暴力的な捜査やアクションを繰り広げる一方、恋愛や食、ファッションや子育てなど、人生を謳歌することにも手を抜かない主人公はいかにもフランス映画的にして、いかにもベルモンド映画的なお楽しみ。
 ベルモンドは、その多彩な魅力で様々な役柄を、全身を駆使して彼の色に染めてきた。ベルモンド映画とは、<ベルモンド・ユニバース>とでもいうべきベルモンドを見るエンタテインメントであり、数多く見れば見るほど味わいが増し、何度見ても発見がある壮大かつ永遠の宇宙である。

「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選GRAND FINALE」

 最後に、6月28日から全国の劇場で開催される「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選GRAND FINALE」についてもお伝えしておきたい。4回目、最後の傑作選となる今回の目玉は、長年の交渉の末、遂に上映可能となったフィリップ・ド・ブロカ監督の『おかしなおかしな大冒険』(1973)と、クロード・ルルーシュ監督の『ライオンと呼ばれた男』(1988)、『レ・ミゼラブル』(1995)という“幻の代表作”3本。特に『ライオンと呼ばれた男』と『レ・ミゼラブル』はJAIHOの提供によって上映が実現した。
 英語圏では“アカプルコの男”という題名で知られる『おかしなおかしな大冒険』は、メキシコのアカプルコを舞台に007やサム・ペキンパーのパロディが炸裂する冒険活劇で、ブラジルのリオを舞台にしたド・ブロカ監督の『リオの男』の延長線上の作品ともいえる。
 『ライオンと呼ばれた男』と『レ・ミゼラブル』は、どちらもベルモンドの俳優人生の到達点ともいうべき集大成。『ライオンと呼ばれた男』は、ベルモンドがこれまで演じてきたキャラクターを1人に集約したような男の一代記で、世界各地での壮大なロケーションによる美しい映像とフランシス・レイの音楽で流麗に見せるルルーシュ演出が際立つ1本。ベルモンドはこの作品で初の大きな演技賞といえるセザール賞最優秀主演男優賞を受賞している。一方、『レ・ミゼラブル』はヴィクトル・ユゴーの原作をルルーシュが激動の20世紀を舞台にホロコーストの悲劇なども絡めながら大胆にアレンジし、ベルモンドが3役を円熟の芝居で演じる感動の大河ドラマ。約3時間の長尺だが、インド映画にも負けないテンションで見る者を引き込み、濃厚なエモーションの連続で魂を揺さぶる。

 いずれ劣らぬ傑作たちをぜひ劇場でも楽しんでいただきたい。

『ライオンと呼ばれた男』
© 1988 / Les Films 13 – STUDIOCANAL – TF1 Films Production
– Stallion Film Und Fernseh Produktiongesellschaft – Gerhard Schm Film Script. All Rights Reserved
『レ・ミゼラブル』
© 1994 / LES FILMS 13 – TF1 FILMS Production. All Rights Reserved

【『ラ・スクムーン』作品ページ】

【『リオの男』作品ページ】

【『オー!』作品ページ】

【『大頭脳』作品ページ】

【『警部』作品ページ】

【「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選GRAND FINALE」公式サイト】